幕末の公卿で公武合体派として活動した近衛忠煕86歳の時の懐紙「池亀」です。
池水に玉藻かつぎてゐる亀は
さながら尾をも曳くかとぞ見る
この歌は背中に蓑をつけたたように見える「蓑亀」を詠んでいます。甲羅に藻がたくさん生えたり藻が尻尾のようになった亀は特に珍重され、長寿を象徴する縁起のよいものとされています。
なお、蓑亀の蓑はマリモの近縁であるバシクラディア属の緑藻類の仲間が甲羅の上に着生してもだそうです。亀は暗い所で冬眠し、炎天下で甲羅干しをするうちに、他の藻類は耐え切れず脱落し、最後にバシクラディア属だけが生き残ることによるとのことです。
昔から「亀は万年」といわれるように長寿の生きものとされてきました。日本のイシガメ、クサガメなどでで30年~40年くらい、種類によっては100年以上生きるそうです。18世紀に探検家キャプテン・クックがトンガ王室を訪れたとき、トンガ王に献上した「トゥイ・マリラ」と名付けられたマダガスカル島のホウシャガメは、その後188年生きたとされています。当時のギネスで「確認できる中での動物最高齢」と認定されています。 ちなみに博物学者で有名な南方熊楠が飼っていたクサガメ「お花」は平成13年(2001)7月まで生きていたそうで、正確な年齢はわからないものの100歳程といわれています。
このように亀は長寿を象徴する縁起の良い生き物として古来尊重されてきました。そうしたことから日本の元号の中の「神亀」や「霊亀」は霊妙で祥瑞のある亀が献上されたことにより改元されました。また、幕末の高山彦九郎 -は緑毛亀を吉兆の証として光格天皇にしたそうです。
近衛忠煕は長寿の象徴である亀の徳にあずかってか、当時としてはまことに破格の年齢である91歳の天寿を全うしています。
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