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執筆者の写真木津宗詮

火箸

茶の湯で用いる火箸は、鉄や砂張、真鍮、南鐐、素銅、黄銅などの金属を材とし、槌で打って延ばす打延べ、中が空洞の素張(張抜き・袋張)、金型に溶湯を鋳込む鋳ぬきなどの製法により造られます。また古社寺の瓦釘を利用したものもあります。形状は丸形や角形、櫂形、菱形など種々あり、装飾として頭部に彫刻や金銀の象嵌を施したもの、透かしをいれたものや、散逸を防ぐために輪や鎖で繋いだものもあります。

台子や長板の総飾の時に柄杓立に立てられる火箸には、炉、風炉の区別がなく金火箸が用いられます。唐物火箸の砂張や鉄象嵌、真鍮などを最上とし、次いで高麗砂張の火箸、和物で各流伝来の形や茶人の好みのものがあります。およそ1尺前後(30,3センチ)後ほどの長さで、頭部に装飾を施し、先端には炭が滑らないように「炭かかり」が付けられています。砂張は打延べか鋳ぬき、真鍮もこれに倣ったようで、種々工夫を凝らし、打抜き(金属板を型にあて、型通りに抜く)で形を付け、象嵌を施したものや、合わせ目を虫喰いにして造られたものなどがあります。武者小路千家の伝来形は鉄の笹頭で、軽くて使いやすい素張の火箸です。伝来形の火箸をもとに、愈好斎が南鐐や黄銅、鉄の象嵌入りなどの火箸を好んでいます。頭の装飾は茶人の好みにより各種あり、例えば流儀のものでは、利休に丁呂木頭の象嵌入りや蕨頭、直斎に水仙頭、愈好斎に梅頭や切子頭、有隣斎に独楽頭、他流では如心斎に木菟頭、一燈に玉頭、松実頭、久田宗全に椎頭などが、他にも認得斎に夕顔彫の好みがあります。

柄杓立の火箸について、木津松斎の一啜斎からの「聞書」に、

全躰昔ハ炭の時ハ、桑柄の火箸を前ニ炭取へのせて持出申候、杓立の火箸ハ、杓のうごかぬ為なり、依而杓おさへと云なり、依而、當時にも炭かゝり無之火ばしと杓立ニかざり置候時ハ、炭の節ハ、炭取ニ桑柄火箸を付ケて出るがよし、臺子火箸を炭の節も用ひ申候事ハ、文叔時分より初り申候事なり、千三家共、大躰其時分より初まり申候事なり

古くは、柄杓立の火箸は「杓おさへ」といって、柄杓が動かないようにするためのものであったと記されています。台子で炭点前をする時は、炭斗に桑柄火箸を仕組んで炭をついでいたようです。この火箸の扱いは、炭かかりのない飾り火箸を使う時にその名残が伝わっています。今日の炭点前で、釜をあげて下火を直す時、柄杓立より飾り火箸を抜いて、勝手付の壁と地板の間に置き、実際には炭斗に仕組んだ炭かかりのある実用の火箸を用いて炭をつぎます。なお、柄杓立の火箸を炭点前で用いるようになったのが文叔の時分で、三千家ともにおおよそその頃から始まったとあります。

柄杓立に立てる火箸でないものに、風炉に用いられる、利休形とされる鉄張火箸(みず)があります。頭の部分が針の穴のようになっていることから「針火箸」と呼ばれています。重量が軽く、中が空洞であるため熱くなりません。同様に真伯好みの鉄竹形梅鉢文火箸もあります。原則として風炉には柄のない金火箸、炉には木の柄の付いた火箸を用います(但し、台子などの総飾の時は、炉であっても柄杓立の炭かかりの付いている金火箸が用いられます)。柄の付いた火箸は利休に始まるとされ、桑柄の付いたものは利休形といいます。炉は風炉に比べ火床が深く、火力も強くて、熱伝導のよい金火箸では熱くなります。それまでの柄に蒔絵を施し、先端を三、四寸銀で巻いた有職の火桶(火鉢)用の火箸では、茶の湯の炉の高温には不向きなため、利休は独自に桑柄の火箸を好んだと考えられます。流儀の好みでは、真伯にも桑で好んだもの、愈好斎に雲錦絵塗柄火箸や桜皮巻桑柄火箸の好み、有隣斎に雲錦絵真塗柄火箸があります。なお、桑以外の材として、松や杉、竹などを柄にしたものがあります。

この他に、炉中の炭をあげる時に用いる水屋用の長火箸があり、頭が輪で、持つところを竹の皮で包み、紺の撚り糸で粗く巻いたものになります。また流儀の特徴として煙草盆に添えられる香火箸があります。香火箸も笹や独楽、梅、切子などの意匠の頭のものが造られ、一啜斎好みになる椀頭香火箸が知られています。煙草がポルトガル人により伝えられた当初の姿を残すもので、火入同様、それまでなかった喫煙具を、香道具で転用した名残です。香火箸の用途は、火入の中の炭が時間が経過して小さくなった時に、火種を灰から掻き出すためのものです。

なお、茶の湯の火箸は、利休時代の金盛徳元や千家十職の中川浄益、大森長兵衛(金長)、金谷(金屋)五良三郎等の金物師や釜師により造られてきました。

写真は右から、中川浄益作 官休庵伝来形笹頭、金盛得元作 鳳尾象嵌火箸、大森長兵衛作 愈好好梅頭火箸、竹影堂作 瓢頭火箸、金谷五郎三郎作 松笠頭火箸、中川浄益作 利休形桑柄火箸、真伯好桑柄火箸、愈好好竹柄火箸、中川浄益 作利休形鉄張火箸、大森長兵衛作 真伯好鉄竹形梅鉢文火箸、勧修寺後西天皇御常御殿瓦釘火箸、八坂塔瓦釘火箸、中川浄益作 長火箸、炭割火箸、大森長兵衛作 一啜斎好椀頭香火箸、北野宗三郎作 花笑斎好菊頭香火箸、中川浄益作 素黒味張貫香火箸


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