高齢になり脚を傷めて正座が出来なくなり、心なくも茶の湯わやめていく方が以前から増えています。そうした方たちが長年にわたり支えてくださったおかげで今日私たちが茶の湯をすることができるのです。なんとかしてそのご恩に報いることができないかと、10年以上前から社中の数寄屋大工の木村さん、大畑さん、川崎さんたちと高齢者の方たちに手軽に茶の湯を楽しんでもらえるアイテムを試行錯誤してきました。
高齢者に使ってもらうには、軽くて簡単に組み立てることができる立礼卓でなければならない。そしてこんなことを書くのは失礼なことですが、高齢の方はあと何回使うことができるかとかんがえます。値段も手頃なものでなければなりません。そこで軽い素材で安価なものとしてベニア板を採用しました。和室にも洋室にも違和感のないものでなければなりません。決して安っぽくない仕上げになるように色付けし、落ち着いた雰囲気のものに仕上げました。ベニア板なので高齢の方も一人で組み立てることができます。そしてもっとも大事なことは安全であるということです。炉には電熱機でなくI Hを使っています。これなら釜を載せて薬缶で必要量だけ水を入れスイッチを入れるとすぐに湯が沸きます。そして長時間湯を沸かしすぎるとセンサーが電気を止めてくれ、空だきになはないので火事の心配もありません。そして風炉だけでなく炉の稽古もできるようにしました。炉は簡単につけ外しできます。
寸法を出すのがとても難しいことでした。棚や風炉釜を載せて高すぎないようにしなければなりません。畳の上で点前をする時は膝の位置で点前をします。その高さがとても重要です。また椅子にかけて膝から下が支えたり伸びすぎるのも問題です。そこで使われる方の足の長さも勘案して寸法を出しました。点前が難なくできるように工夫しました。稽古で点前だけでしか使えないものだと、時間が限られている方には贅沢なものになってしまいます。そこで普段使わない時は机や食卓としても利用できるものにし、炉で鍋物もできます。抹茶でなくても釜の湯を急須に入れて番茶や煎茶、コーヒーを飲むこともできます。3時のおやつにも使うことができます。
大阪の80半ばの老先生のお宅です。この先生は5年前に正座もできないので廃業しようとしていました。そんな矢先に私の茶会に来られ、これをみて是非とも欲しいということで、木村さんが作って納めさせてもらいました。一旦は社中の方に稽古を辞めると伝えたのですが、思い直して再び稽古を始めました。今は数名の社中の方と毎週稽古をされています。そして稽古でなくてもご近所の方やお友達が毎日お菓子を持ってお茶しに来るそうです。時にはお弁当持参で朝から夕方までこの立礼卓でお茶を楽しみよもやま話で終日花を咲かせて楽しんでいます。近所方は「今日も□□喫茶にいく」と言って千客万来だそうです。一人暮らしなので、普通ならテレビを見るくらいのことしか1日を過ごすことができません。でもテレビなんか見ても見たい番組もなく、またテレビは一方的で会話もできない。でもこの立礼卓のおかげで毎日毎日、生きた人と会話を交わし、ボケる暇がないとのことです。
先日、お近くに行くことがあり立ち寄りました。この立礼卓を据えたマンションの四畳半余りの部屋でお茶をいただきました。そしてこの立礼卓で毎日楽しい時間を過ごし、とても充実して老後を送っていると、とても喜んでくださいってました。私も本当に嬉しい気分になり、みんなで頑張って作った甲斐があったと心が満たされた気分になりました。
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