桜ちり春のくれ行く物思ひも
忘られぬべき山吹の花
藤原俊成
桜も散り春の盛りを過ぎようとする頃、新緑の葉の中に、春の暖かい日差しに眩く山吹は黄金色の花を咲かせます。心も虚しく憂鬱になるのをその美しい花は思わず忘れさせてくれます。
有職には装束の重ねに用いられた独特の美しい色調が現れる「襲色目(かさねいろめ)」があります。山吹は平安の人々に好まれ、その華やかな色彩が愛され、春を代表する襲色目として男女ともに盛んに装束に用いられました。『源氏物語』の末摘花に、
晦日の日、夕つ方、かの御衣筥に、『御料』とて、人のたてまつれる御衣一領、葡萄染の織物の御衣、また山吹か何ぞ、いろいろ見えて、命婦ぞたてまつりたる。
華やかで豪華な演出の時に山吹色は用いられたようです。なお、山吹の襲色目には「山吹」「裏山吹」「山吹匂」「青山吹」とかがあります。
山吹
裏山吹
山吹匂
青山吹
「山吹重ね」は装束だけでなく、紙釜敷や帛紗などの茶道具はじめいろいろななものにもちいられています。そうした中に和菓子もあります。中が緑、外が黄色の餡を茶巾絞りにしたこなしです。有職の「青山吹」の襲色目のまことに上品な色合いの美味しいお菓子です。
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