武者小路千家13代有隣斎宗匠の筆になる短冊です。
こゝろなきみにもあはれハしられけり
しきたつさわのあきのゆふくれ
宗屋書
『新古今和歌集』所収の「秋の夕暮れ」を詠んだ「三夕の歌」として知られる西行の和歌です。
浮世を捨てて執着の念から遠いはずの出家の身である西行。いくら修行を積もうと、心の底から湧き起ってくる執着を払うことができなかったのです。その執着とは花や月、そしてこの沢辺から鴫が飛び立つ秋の夕暮れ。自然と感じることができるこのしみじみとした趣が西行の執着だったのです。西行にとってあわれ、いいかえると美は執着であり苦しみそのものであったのです。
西行は武士でありながら無常を感じて若くして仏門に入りました。執着、すなわち煩悩を断ち切り、安心を得るために仏道を修しました。しかしながら生涯それを断ち切ることができず、苦しみ続けたと私は思っています。だからこそ素晴らしい歌を詠むことができたのでしょう。
有隣斎宗匠は流儀でも屈指の名筆家です。とくに仮名文字はまことに流暢で美しい文字を書かれました。宗匠は誠に気性の荒い峻厳な方で、その反面とても繊細な方でもありました。その繊細さはこの仮名文字に現れているように私は思っています。私は内弟子として3年間お仕えしました。先輩方は誠に厳しい指導を受けました。私は最晩年の弟子ということで、そのような目に遭うことはありませんでした。病気で倒れられてから20年余りの療養生活を送られて86歳で亡くなられました。
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