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執筆者の写真木津宗詮

埋火(うずみび)

「宗旦四天王」の一人杉木普斎は、諸国に伊勢参宮を勧め、その便宜をはかる神職である伊勢の神宮外宮(げくう)豊受大神宮(とようけだいじんぐう)の御師(おんし)でした。普斎の逸話を集めた『普公茶話』に、播州網干の檀那佐々木氏が伊勢に参宮した時、老齢のため次回の参詣がいつできるかわからないので、どんなものでもよいから茶道の形見を一品所望しました。普斎は茶席に炭斗を持ち出し、煙草盆の火入に炉中の火を埋め、「我等も年老たれバ齢のほどもいつとはかりがたし、されバ此火を国に持かへられて生涯滅せず釜を沸し給はば、百歳の後までも嬉しからん」と差し出しました。佐々木氏も「是に過たる御形見ハあるまじ」と、大層喜んで網干に持ち帰ったとあります。その火は子の代まで大切に護られ、また火入も秘蔵されたとのことです。

わたしの大好きな普斎の心温まる逸話のひとつです。

 今日、炭はガスコンロでおこして炉に次いで釜を掛けます。マッチやライターのなかった時代は、先のとがった棒火鑽杵(ひきりぎね)と木製の台である火鑽臼(ひきりうす)でもみ合わせて火つけるか、鋼鉄片の火打金に硬い石を打ちあわせて出る火花で点火させて火を起こしました。ちなみにライターはセリウムと鉄の合金である発火石を用いてアルコールや可燃性ガスなどに引火させています。むかしの人にとって火をつけるということはとても手間のかかる作業でした。そこで一日の終わりには火のついた炭を灰に埋めて翌日までもたせ、それを火種として改めて炭を足して湯を沸かしました。これは茶の湯だけでなく、一般の家庭でも同様のことをして煮炊きや灯火の火としました。これを「埋火」といいます。




 今夜は大晦日です。毎年大晦日の夜は夕食の後に家族揃って除夜釜のお茶を飲みます。そのあと炉中を整えて埋火をします。そして元旦の寅の刻(午前4時)に若水を汲み釜の湯をすべて改め、埋火を半田に移して炉中を整え、半田の火種を再び炉に移して新たに炭を足します。火は旧年から新年に引き継がれ、水は新年の若水に改められます。その後、家族でお屠蘇と雑煮で新年を祝い、続いて茶室で私が濃茶を点てて家族で大福茶を飲みます。代々の宗詮がしてきたとおりに。すべて「相変わらず」です。

 今年も例年どおり炉中の炭に灰をかけて埋火をしました。除夜の鐘の音を聴いてしばらく床に就きます。来たる年が素晴らしい年となることを願いつつ。

 大綱宗彦の詠草「埋火」です。



               大綱            埋火   たつる茶のあはきを深き交はりに   話れやかたれ埋火の本

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